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Vol.17 森田 いづみさん


EPW members interview Vol.17

森田 いづみ
一般社団法人 C.W.ニコル・アファンの森財団 理事長

Profile

1984年テレビ番組制作およびタレントのマネージメントを手がける㈱サンオフィスに入社。CWニコルを担当し、マネージメント業務やテレビ番組の企画などを行う。同氏と一緒に北極やアフリカなどでキャンプ生活を経験。また、バブル経済による自然破壊の深刻さを憂いて環境保護活動にも積極的に参加する。2008年サンオフィスから独立し、㈱C.W.ニコルオフィスを設立。代表取締役社長に就任。2020年(一財)C.W.ニコル・アファンの森財団の理事長に就任。

お仕事について

私たちが活動しているのは、長野県北部・黒姫山のふもとにある「アファンの森」です。もう40年も前、英国出身の作家で環境活動家だったC.W.ニコルが、荒れ果てて捨てられていた里山を買い取り、自然豊かな森に蘇らせる活動を始めました。私は長年彼のマネージャーを務めてきて、今は理事長としてその志を引き継いでいます。

日本の国土の約7割は森なんです。でもそのほとんどは人工林や、手入れの行き届かない森で、本来の生物多様性を持った原生林はわずか2%以下しか残っていません。バブルの時代には湿地の4割が埋め立てられ、山は削られ、川はコンクリートで固められました。自然が急速に失われていった時代だったんです。

ニコルがよく言っていました。「あの頃の日本は、神様が本来の神様じゃなくなって、お金の紙様に変わってしまった」って。日本には北に流氷があって、南にはサンゴ礁がある。高い山や、複雑で長い海岸線もある。こんなに美しくて、生物多様性に恵まれた国は世界でも稀なんです。

その豊かな自然があったからこそ、日本人は器用さや知恵深さ、人に分け与える優しさを育んできた。けれども、その自然がなくなれば、日本も日本人も変わってしまう。ニコルはそれをとても悲しんでいました。
だから彼は「自然は大事なんだよ」と各地で伝え続けました。でも国はなかなか動かない。だったら自分でやって見せるしかない、と。自分の稼いだお金のほとんどを土地に注ぎ込み、人が手を入れれば自然は必ず回復するんだと証明してみせたんです。

自然の世界に入ったきっかけ

もともと私は美術を専攻して油絵を描いていた人間で、20代の頃は男の子やファッションにしか興味がない軽薄な人間でした(笑)。そんな私を変えたのが、ニコルとの出会いです。

日本各地で壊されていく自然を目の当たりにして、「この森を切ったらどうなるの?」「税金で誰も使わない施設を建てるのはおかしいよね」と素朴な疑問を投げかけていました。そうやって考えを深めていくうちに、自然や社会問題への関心が高まっていったんです。

今、私の役割は、長野の森で行われている活動を都市とつなぐことです。東京を拠点にスポンサーや会員の方々に活動を報告したり、企業研修や講演を企画したり、学校と連携したり。森を直接守るスタッフがいて、私はその活動を社会に広げる架け橋のような存在です。アファンの森で生まれた学びや体験を、できるだけ多くの人に届けていくことが、私の大切な仕事なんです。

森が人を癒す力

森は自分をリセットしてくれる場所なんですよ。以前ちょっと検査をしたことがあるのですが、森に入る前に血圧、脳の疲労度、免疫力を測るんです。それで、しばらく散歩したあとにもう一度測ってみると、血圧は安定してるし、脳の疲れはガクンと下がってる。それから免疫力も、1.5倍とか2倍くらいまで上がるんです。そしてその効果は1か月くらい続くんですよ。

さらに面白いのが森にいなくても効果が残るということ。森の映像や音をちょっと見たり聞いたりするだけで、脳が「あ、あのリラックスした状態だ」って思い出すんです。つまり、森で過ごした記憶がちゃんと体に残っていて、都会に戻ってもその癒しが続いていく。森は人を根本からリセットしてくれる場所なんだと思います。
だからこそ、都会で疲れ切った人にこそ森に来てほしいです。オンラインで仕事ができる今なら、時々森で過ごしながら働くこともできると思います。

2024年、アファンの森は環境省の「自然共生サイト」に認定されました。国が「守るべき森」として公式に認めてくれたということです。さらに、この取り組みは「30by30」(2030年までに陸と海の30%を自然保護区にする目標)の国際データベースにも登録されました。
広さは小さいけれど、40年かけて続けてきたことが形になった証であり、応援してくださっている会員やスポンサー企業の方々にとって大きな励みになりました。私にとっても、本当に嬉しい出来事でした。

EPWとの出会いと魅力

2020年にEPWに入会しました。広尾はニコルが暮らしていた土地でもあり、私にとっても縁を感じる場所でした。事務所としても、お客様を迎える空間としても理想的だったんです。
EPWの魅力は、まずスタッフの皆さんの温かさ。そして会員の方々も第一線で活躍されていて、話すたびに刺激をもらえます。それでいて家族のような安心感があって、ここに来ると自然と元気になれるんです。
実際、財団を支援してくださる方や、広報・エシカルの視点で助言をくださる方など、たくさんのつながりが生まれました。気づけば長くお付き合いしている方も多く、本当にありがたいご縁だと思っています。
ここは、同じ会社の仲間のように自然に過ごせる空気がある。世代も職種も違う人が集まりながら、互いに支え合う多様性があって、私にとってEPWは仕事の拠点であると同時に心を温めてくれる大切な場所になっています。

Izumi Morita

Interview with